香川県の自然環境

香川県は、四国の北東部に位置し、東西92.1km、南北61.3kmの東西に細長い半月形の地勢を有している。南東部は讃岐山脈をはさんで徳島県に接し、西部は愛媛県に接している。北部は瀬戸内海に面し、風光明媚な景観として知られる瀬戸内海国立公園の中心に位置する。また、瀬戸大橋で岡山県倉敷市児島と結ばれている。
東端は東かがわ市の松島(東経134度27分)、西端は観音寺市の股島(東経133度26分)で、いずれも瀬戸内海に浮かぶ小さな島である。また、南端は三豊郡大野原町海老済(北緯34度0分)で愛媛県川之江市に接し、北端は小豆島の北東に位置する小豆郡内海町藤崎(北緯34度33分)である。
県土の面積は約1,875.92km2で、国土に占める割合は0.5%と47都道府県の中で最も小さい。しかし、平野が広く山地が低いため、土地利用度が高く、人口密度は中国・四国地方でもっとも高い。このため、古くから自然に対する人間活動の影響が大きいところでもある。主な土地利用は、農用地が18.0%、森林が47.2%、道路・宅地が14.9%である(2002(平成14)年現在)。森林が最も広い面積を占めてはいるが、その約60%は薪炭林や農用林として利用されてきた二次林、約31%はヒノキやクロマツ等の人工林で、自然林の面積はわずかである。

本県の気候は、降水量が少ないことで特徴づけられる。年降水量の平年値(1971〜2000年の平均値)は高松で1123.6mmであり、瀬戸内海沿岸部の県庁所在地では最も少なく、太平洋側の高知の半分以下である。中部地方の内陸部や北海道では本県より降水量の少ないところがあるが、それらの地方では気温が低いため、蒸発や植物の蒸散作用により失われる水の量も少ないため、本県ほど乾燥することはない。
月降水量は冬に少なく9月と6月に多いが、気温の高い8月に少なく平年値で100mm以下となる。そのため梅雨期の降水量が少ないと渇水となる。渇水時の飲料水や農業用水の不足は「香川用水」により改善されているが、野生動植物の生育や生息には大きな影響を与えているものと考えられる。
高松の月平均気温の平年値は8月に最も高く27.4℃で、1月に最も低く5.3℃である。最も寒い月でも月平均気温は5℃以下とはならない。温度気候のうえでは本県の大部分は暖かさの指数(注:参照)が85℃・月以上の暖温帯気候となり、自然条件ではシイやカシ類の常緑広葉樹林が成立する気候である。それに対して、暖かさの指数が85℃・月より低い冷温帯気候となるのはおよそ標高800m以上の讃岐山脈の一部にすぎない。一部とはいえ、この地域にはブナをはじめとする冷温帯気候に特徴的な植物が遺存的に生育しており、重要な地域である。
近年、地球温暖化の生物に対する影響が危惧されているが、香川県でも温暖化は進行している。温暖化にともなって山地部では冷温帯域の縮小が、平野部では熱帯原産の動植物の侵入定着が問題となる。
(注) 「暖かさの指数」とは、月平均気温が5℃以上の月の月平均気温から5℃を引いた値を1年分積算した値で、その地域の温度気候条件を表す指数として考案されたものである。ここで5℃は経験的に定めた植物の低温活動限界温度である。
本県の地形は、南部に連なる讃岐山脈と北部に広がる讃岐平野、そこに点在する台地上や円錐状の孤峰、瀬戸内海に点在する多数の島々に特徴づけられる。これらの地形は、花崗岩を基盤とし、その上に堆積層や火山岩類が重なってできたものである。この花崗岩は起伏に富み、その上部の火山岩類とともに浸食され、讃岐山脈や台地上の山々、平野といった本県の地形を形作っている。
讃岐山脈は、標高500〜1,000mの山々が東西方向に尾根を連ねている。最も高い山は琴南町の竜王山で1,059.9m、次いで大川山(1,042.9m)、大滝山(946.0m)である。讃岐山脈は約7,000万年前の太平洋の海底に堆積した泥や砂(和泉層群)が隆起して形成されたとされる。和泉層群は、近畿地方の和泉山脈から讃岐山脈を経て九州地方の天草にいたる中生代白亜紀後期の地層群で、香川県内の地層からはアンモナイトやオオムガイ、イノセラムス(二枚貝)等の海棲の動物化石が確認されている。
讃岐山脈の北側には、標高100〜400mの丘陵地が東西に延びている。この丘陵地は、讃岐山脈の隆起にともなって浸食平坦面が上昇した山麓台であり、100〜200万年前の砂礫層(三豊層群)が見られる。この層の中には、本来徳島県や愛媛県でしか見られない青色や黒色(結晶片岩)の礫が混じることがある。この礫の由来については、讃岐山脈を越えて流れる古吉野川があり、それを通ってやってきたという説や愛媛県から燧灘に出て流されてきたという説がある。
北部に広がる讃岐平野は、おもに大川・高松・丸亀・三豊の4平野からなる。讃岐平野独特の景観として有名なのは、平野に突き出す円錐状の山塊群である。「讃岐富士」の名で知られる飯野山をはじめ、標高200〜800mの台地状や円錐状の孤峰が多数見られる。これらは火山性の山塊群で、たいてい花崗岩を基盤とし、その上に凝灰岩、讃岐岩質安山岩が流出し形成されている。山頂部にある讃岐岩質安山岩は、約500〜1,000万年前の火山活動によってできた黒色の溶岩であり、下部の凝灰岩や花崗岩と比較して風化しにくいため、山頂に残り台地状や円錐状の地形を形成している。瀬戸内海を見渡す景勝地として有名な五色台や屋島も同様の成り立ちをもつ開折溶岩台地の一つである。特に屋島の屋根型台地は、地質学上「メサ溶岩台地」の典型とされ、国の天然記念物に指定されている。
瀬戸内海に点在する大小の島々も、平野部の山塊群と同様、山頂に讃岐岩質安山岩を残す火山性の山塊群である。これら島嶼部には、現在でも自然海岸が残されている。自然海岸が減少し、人工海岸へと改変されるなか、島嶼部の自然海岸率は78.8%(1998(平成10)年時点)と大きな割合を占める。それら自然海岸に広がる砂浜や崖地には、自然植生が分布している。また、島嶼部において特に記載すべき地形として、小豆島の「寒霞渓」があげられる。寒霞渓は小豆島の中央部嶮岨山山系南側斜面に広がる集塊岩地域であり、再三の火山活動で噴出した安山岩や集塊岩などが差別侵食により奇岩として残り、雄大な渓谷美を形成している。
県土を流れる河川は400余りある。そのほとんどは讃岐山脈を水源とし、山間部では急勾配で流れ、平野部では天井川となって扇状地を形成し、瀬戸内海に流れ込んでいる。しかし、いずれの河川も流路延長が短く、雨量も少ないことから、川幅は狭く水量も乏しい。そのため、古くより平野部を中心に多くの溜池が築かれている。その数は兵庫県、広島県に次いで全国第3位、密度では全国1位の多さである。溜池は、農業用水としての利用のみならず、水資源の涵養や野生動植物のハビタットとしての役割も果たしている。
本県は古くより人間活動が盛んにおこなわれてきた地域であり、自然植生の面積は県土の約0.4%とわずかである。主な自然植生は、讃岐山脈の尾根部に残された温帯性の森林や社寺林として維持されてきた暖帯性の森林、自然海岸に分布する海浜植生である。一方、人間の営みによって形成され、維持されてきた二次的自然環境は、二次林、農耕地、溜池などを合わせると、県土の約65%に達する。
本県において現在までに生育が確認されている野生植物は、現在約2,400種類(維管束植物)に及ぶ。狭い県土ながら、全国的にみても種類数は決して少なくない。しかし、種類数が多くても、個体数の希少なものが多いという特徴があり、わずかな生育環境の変化によっても絶滅の危険にさらされる種が多いという問題がある。そして、このような特徴は、今回のレッドリストの選定結果に顕著に表わされている。
主な自然環境ごとに植生・植物相の概要を示す。
<讃岐山脈を中心とした奥山:自然林>
本県では数少ない自然植生の一つとして、讃岐山脈の尾根部に成立する温帯性の自然林があげられる。大滝山と竜王山の尾根部には小面積ではあるがブナ林が残されており、また、大川山ではイヌシデ林が成立している。これらの自然林を含む一帯は、「大滝大川県立自然公園」に指定されている。
<丘陵地と平野に点在する孤峰:里山>
丘陵地や平野部に点在する円錐状の低山地には、アカマツ林やコナラ、アベマキが優占する落葉広葉樹林といった二次林が広がる。かつてはアカマツ林が代表的な植生であったが、近年のマツクイムシの被害によりアカマツが枯れ、コナラやアベマキなどの落葉広葉樹の二次林に遷移しているところが多い。このようないわゆる「里山」環境には、キキョウやリンドウ、ササユリ等、人為的管理のもとで生育する植物が生育する。しかし、近年の管理放棄に伴い、これらの植物も姿を消しつつある。
<田園地帯:農耕地と溜池>
平野部では水田を中心とした農耕地の占める割合が高い。降雨量の少ない香川県では、平野部を中心に多数の溜池が点在しており、これらの溜池と水田を結ぶ水路を含めた水辺環境は、水生・湿生植物の貴重なハビタットとなっており、中にはオニバスやガガブタ、ミクリなど全国的に希少な植物が生育するところも多い。また溜池は水の中だけでなく、その堤もキキョウやオミナエシなどの草原性の植物の生育地として重要である。
<島嶼部の海岸域:海岸植生>
「白砂青松」の素晴らしい景観で知られる瀬戸内海沿岸部には、文字通りクロマツ林と自然の砂浜が広がる。特に島嶼部には自然海岸が残されているところが多く、ハマエンドウやハマヒルガオなどの海浜植生が形成され、また、海岸の崖地にはウバメガシ林などの自然林が残されており、ツワブキやハマナデシコが生育する。
<小豆島の集塊岩地域:「寒霞渓」>
小豆島の「寒霞渓」とよばれる集塊岩地域には,イワシデ林が広がり、小豆島ならではの貴重な植物が生育する。本県の特産種にはショウドシマレンギョウ、ミセバヤ、カンカケイニラ、ヒメソクシンランの4種類があり、うちヒメソクシンランを除く3種類は小豆島の特産種であり、その特異な環境が伺える。
<哺乳類>
本県には高山地に分布するトガリネズミやヒメヒミズ、大型獣のツキノワグマやニホンカモシカ、樹洞棲のコウモリ類や森林性のヤマネやモモンガが生息せず、四国内の他の3県に比べて哺乳類相が非常に貧弱である。本県に現在分布する哺乳類の種数は34種で、そのうち移入動物(外来種)は計10種あるので、現在の自然分布の種は24種である。
<鳥類>
1970(昭和45)年より2003(平成15)年までに本県で確認されている鳥類は、18目、61科、299種に及ぶ。それらは、県内の多様な自然環境のうちで、種ごとに適した環境と季節を選び生息している。讃岐山脈をはじめ各地の低山には、留鳥に加えて県民鳥ホトトギスで代表される夏鳥やツグミ類のような冬鳥が渡来する。また、本県で特徴的な溜池には、冬期に各種のカモ類が渡来する。さらに、県内の干潟は、チドリ科シギ科のような旅鳥が渡りの中継地としている。いっぽう、島嶼部の海岸では数少ないクロサギも繁殖する。
しかし、それらのなかには、クロツラヘラサギのように世界的にも貴重な種が多々含まれたり、オオタカやコアジサシのように生息環境の変化によって絶滅の危機に遭遇しているものも多く、県内における多様な自然環境の重要性が伺える。
<爬虫類>
香川県下にはカメ類が4種、トカゲ類が4種、ヘビ類が8種がそれぞれ確認されている。ミシシッピーアカミミガメは、ペットが野生化したものである。ニホンヤモリは人家付近、タワヤモリは海岸の岩場などに生息している。シマヘビは、ヤマカガシとともによく見られる。毒を持つことで有名なマムシは、山ろくや山中で見られる。人目につきにくく、珍しいヘビと思われているのがタカチホヘビやシロマダラである。タワヤモリはさぬき市(旧長尾町)の多和産のものが新種として記載されたヤモリである。外来種であるミシシッピアカミミガメの分布地及び生息密度の増大は在来種を圧迫している。
<両生類>
県下にはサンショウウオ類が3種、カエル類では12種が確認されている。ニホンアマガエルやヌマガエル、ウシガエルは、個体数も多く、県内に広く分布している。その他の12種は、分布範囲、個体数の減少が目立ってきており、とくに個体数の減少が顕著なものは、カスミサンショウウオ、ニホンヒキガエル、トノサマガエル等である。今回記録されたダルマガエルは今後の生存が憂慮される。
<淡水魚類>
県内の純淡水魚46種のうち移入種の24種を除いた22種が在来の純淡水魚として現在記録されている。このうち、ニッポンバラタナゴ、カワバタモロコ、ナガレホトケドジョウ、アカザ、メダカ、オヤニラミは全国的にも絶滅が心配されている種である。さらに、ヤリタナゴ、アブラボテ、カジカ陸封型、オオヨシノボリ、ルリヨシノボリ、シロウオは県内で非常に狭い地域に分布している種である。また、移入外来魚のブルーギルとオオクチバスは、内水面漁業や生態系への影響が問題になっている。
<昆虫類>
5,000種を超える昆虫類が記録されているが、総種類数や分布上の珍しい種類は、ほかの四国3県と比較して少ない。しかし、ヒメヒカゲ、ヒメタイコウチは、本県が日本における分布の南限に当るほか、高松市女木島で発見されたチュウジョウムシ、琴平山のコンピラメクラチビゴミムシ等、特産種、特産亜種も生ずる。また、ニョタイササキリモドキは女体山(さぬき市・東かがわ市)一帯など讃岐山脈東部にのみ分布している。
<甲殻類>
カニ類では、県下の河川上流域でサワガニ、河川全域でモクズガニ、海岸でアカテガニなどが生息するほか、ハクセンシオマネキは、高松市新川河口などで確認されている。エビの仲間では、テナガエビ、スジエビ、ヌマエビなどが県内各地の溜池や河川に広く生息している。今回シオマネキの生息を河口域で確認した。
<陸産・淡水産貝類>
陸産貝類は約130種が生息、産地が少ない上、各産地での個体数も少ない。しかし、県の面積が少ないわりには、種類数は多い。讃岐山脈にはわずかに残る温帯性自然林に大型のカタツムリのアワマイマイやオオギセルなど多種のキセルガイ科貝類が生息している。また、小豆島の集塊岩地帯にはヤハタマイマイなど本州系の遺存種が分布している。淡水産貝類は31種が生息しているがマルタニシなど在来種が減少し、スクミリンゴガイなど移入種が生息域を拡大している。汽水産貝類はワカウラツボなど16種が確認されているが個体数が少ない。